序列作り

【研修より修羅場経験】経営人材育成方法【スキルよりセンス】

楽しい会社生活を送るには、魅力的な会社であることが重要です。

会社の魅力は様々ありますが、その一つは「経営陣の魅力」です。

  • 明るい未来だけでなく、そこに至る具体的な道筋を考え示す。
  • 目標や戦略を分かりやすく現場に伝える。
  • 成長のために厳しくありながらも、人の心への配慮も忘れず、人ったらし。
  • 最後に必ず結果を出す。

そんなリーダーの元で過ごす会社生活は楽しいです。

逆に、自分の保身ばかりで、意思決定はせず、責任を下に押しつけ、現場も見ない。そして最終的に結果も出ないリーダーがもし存在すれば、そこでの会社生活は楽しくないはずです。

では、そのような人材が生まれるために、会社は何ができるでしょうか。

結論は、「積極的に任せてみるしかない」というのが、今の想いです。

以下、詳細をお伝えします。

経営者育成は任せてみるしかないと考える理由

経営の力はスキルのように測定が難しい

もし、経営の力(経営力)のようなものがあったら、どのように測定できるでしょうか。経営検定1級のような客観的な指標があればいいですが、そのようなものは存在しえないと思います。

なぜならば、経営は何か測定可能なスキルではなく、「商売の勘=センス」が最重要であるためです。

センスの有無を見るには、実際に挑戦してみないとわかりません。

経営学者である楠木建氏は、著書の中で経営者に求められるスキルとセンスについて以下の通り記されています。

スキルをいくら鍛えても、優れた経営者を育てることはできない。スーパー担当者になるだけだ。スキル偏重のセンス軽視がひどくなると、挙句の果てに、「代表取締役社長の担当業務を粛々とこなしています」。これではまともな戦略が出てくるわけがない。経営者が「代表取締役担当者」になってしなうという成り行きだ。

経営センスの論理/楠木 建

また、センスを磨くためにも、実戦を通じた経験値が必要です。挑戦して得た経験を、自分の中で「思考の引き出し」=知恵として積み上げていくことで、センスは磨かれていきます。

事業再生専門家として不振企業の再建支援を行う三枝匡氏は、著書の中でプロの経営者の条件として以下の点を挙げています。

プロの経営者は、過去に、修羅場を含む「豊富な経営経験」を積んでいる。難しい状況に直面しても、これは《いつか来た道》《いつか見た景色》だと平然としていられる。

ザ・会社改革/三枝 匡

これは事業内容など、企業の置かれた文脈にも依ると思いますが、事業にオーナーシップを持ちながら戦略を考えるセンスある人がいた時に、もし英語ができないという理由だけで挑戦するチャンスを奪われているとすると、会社の優秀な人材の芽を摘んでしまっているかもしれません。英語の「スキル」がある人はたくさんいますが、戦略を考える「センス」がある人は稀少だと思うためです。

翻訳者をつけて経営させるほうが、英語だけ流暢でセンスがない人より、会社の将来のためには有効な選択かもしれません。(本人は英語を学習しながら)

幹部育成研修には限界がある

「育成」を考えることは、「研修」を企画することとなってしまうことがあるかもしれません。

確かにトレーニングは実行したことがわかりやすく、職責を果たした気持ちになります。また、何かのスキルを磨く必要がある場合には、会社として適切な訓練の場を準備することは大切なことだと思います。

自分自身がいくつかの幹部研修に企画運営として携わってみて感じる、幹部研修の良さは以下の点があります。

幹部研修の良さ

  • 日常の忙しさから一旦離れて落ち着いて思考できる。
    →新たな思考を創発するきっかけになる。
  • 会社から選ばれているということで、承認欲求が満たされる。
    →リーダーとしての自負が生まれる。
  • 組織運営や事業構想の知識をインプットできる。
    →日常のマネジメント業務の改善につながる。

一方、経営センスの向上という観点からは研修には限界があります。研修で得た気持ちを継続することが難しいことと、肝心のセンスは鍛えられないということです。

米国のリーダーシップ研究の調査機関であるロミンガー社が、経営幹部に「どのような出来事が役立ったか」と調査すると、“70%が経験、20%が薫陶、10%が研修”と答えたという「70:20:10の法則」があります。

研修によって気づきを得ることは大事な要素ですが、研修で全てを解決するというのは難しいことがわかります。

やはり、経営者として育つためには良い実戦の場を作ることが必要になります。

変化への対応力は任せてみないと見極めが難しい

良い経営者になるためには、市場環境の変化に適応できる力が必要です。環境の変化に適応できないと、組織は勝てなくなり衰退していきます。

そして、「変化に適応できる」というのは、自分の考えを強く持ちながらも、必要に応じて「柔軟に人の意見を取り入れることができる」ということになります。

言うは易しですが、実際にリーダーが自己否定しながら他者の意見を受け入れることは、出来る人と出来ない人がいます。出来る人材の見極めには、今の自分の考えでは解決できないレベルの課題に挑戦することが必要です。その中で、「自分に固執して結果を出せない」か、「自分の殻を一つ破り、課題を解決することができるか」のいずれかの道を辿ることになります。

この「変わることができる人」というのは、成人学習・職業発達論の教授であるロバート・キーガン氏が定義する「自己変容型知性」があるということだと考えています。

ロバート・キーガン氏によれば、大人の知性は以下の通り三段階あります。1から3へ成長していきます。

知性の三段階特徴
1.環境順応型自分の確固たる価値観や判断基準がない。
周囲の期待に応じて行動する。
2.自己主導型知性自分の価値観や判断基準が確立。
自分のできることを決め自律的に行動できる。
3.自己変容型知性自分の価値観や判断基準を客観的に見ることができる。
対立する考えを統合することで新たな自分を形成する。
なぜ人と組織は変われないのか/ロバート・キーガンを元に作成

著書の中で、既に自己変容型であるひと、または自己主導型から自己変容型へ移行しかけている人は、全体の10%にも満たないと記載がありました。

成人として自分の考えを持ちながら、他者の価値観を取り入れ変化していくことは、皆が簡単にできることでないと考えられます。

難しい課題に対して自分の中にある矛盾する自分を認識し、理解し、変容していくことができる人材であるか。その見極めのために任せてみることが必要だと考えています。

考えられるアクション

育成に適したポジションの創出

実際に任せてみる時に最初に考えるのは、相応しいポジションがあるかという点です。

場合によっては、過去からの流れで管理職が多くなったり、職能・事業体を細分化しすぎたりしたせいで、組織を率いてセンスがためされるようなポジションがない可能性があります。

まずは、事業や機能を一単位で任せられ、ある程度の規模を持った組織となるように、組織構造の見直しが必要となるかもしれません。

また、そのポジションも若手の中で優秀、ミドル層で優秀、幹部手前で優秀、それぞれの挑戦の場としての規模や職責を意識して作る必要があります。

選抜の開始

任せるためには、任せる人を選ばなければ始まりません。

もし組織内で合意のできる人材、「あいつは、まだ若いけど将来楽しみだな」と皆が思っている人材がいれば、あとはトップが軋轢を受け止める覚悟で選ぶことになります。

もし合意できる人物がいない場合も、トップが軋轢を受け止める覚悟で選ぶほかありません。その際は、評価制度を活用して選抜する根拠を作ると、より選びやすくなるかと思います。

いずれにせよ、会社ができることはセンスがありそうな人を、思い切って選抜することです。

経営には何ができるのか。直接的にセンスを教えることはできなくても、センスが育つ環境や土壌を整えることはできる。その第一歩は、組織の中で「センスがある人」をきちんと見極めるということだ。

センスがあるのが誰かを見極め、その人にある商売の単位を丸ごと任せる。こういうことをきちんとやっている会社では、センスが育つ環境が生まれる。

経営センスの論理/楠木 建

選抜者・非選抜者双方へのフォロー

選抜者に対して、その結果と処遇に対して配慮が必要になります。もし失敗した場合であっても、冷遇することなく、元に戻すなどの柔軟な対応が必要になります。

なぜならば、組織が失敗を許容しないと誰も挑戦する人がいなくなってしまう可能性があるためです。

また、選抜されなかった社員の中にも、日常業務遂行のために重要な人材がたくさんいると思います。その方々に対しては、よりその成果に目を向け、承認することを通じて動機付けをしていくことが大切になります。

最初は不公平感や戸惑いが組織に充満するかもしれません。そのうちそれが普通になるまで、企業文化となるまで耐えられるか。それが、現経営者に求められる胆力だと考えています。