前回、人事機能で働く際の一つの専門性と入門書籍について紹介しました。
今回は、同様に産業・組織心理学の全体概要について学ぶことができる書籍を、もう1冊紹介します。
本書籍は、「産業・組織心理学会」が企画した全5巻の第1巻で、習得すべき産業・組織心理学の学習トピックを広く簡潔に解説した「標準テキスト」です。
そして第2巻以降は、それぞれのトピックについて、より深堀していくというシリーズものとなっています。
著者
本シリーズは、産業・組織心理学会企画の元、複数の執筆者によって作成されています。
- 金井篤子 名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授
(編者) - 小野公一 亜細亜大学経営学部教授
- 角山剛 東京未来大学モチベーション行動科学部教授
- 芳賀繁 株式会社安全研究所技術顧問
- 永野光朗 京都橘大学健康科学部教授
(書籍出版時点)
カバー範囲とキーワード
人事部門
募集・採用/評価処遇
- 職務分析と適正配置
- 雇用多様化への対応
- 評価制度の必要性
- 評価における心理的エラー
- 評価の納得感の重要性
キャリア/能力開発
- キャリア発達の定義と必要性
- 能力開発の目的と方法
人間関係
- 職務満足感/動機づけと人間関係
- ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の組織への影響力
- ソーシャルサポートの組織への影響力
- ハラスメント
働く意味
- 働くことへのニーズ・人間観の変遷
- ブラック企業とは
- Well-being=人間らしい働き方と生きがい
組織行動部門
組織と集団
- 集団・組織とは(公式集団/非公式集団)
- 集団凝集性・集団規範・集団意思決定・社会的手抜き・集団浅慮
- 集団内コミュニケーション戦略
- 組織文化と組織風土
リーダーシップ
- リーダーシップ特性論:
全てのリーダーに共通する資質・特性を見つけるのは困難。 - リーダーシップ行動記述論:
優れたリーダーは、「仕事の構造化」と「人間関係への配慮」の行動が優れている。 - 状況適合的アプローチ:
求められるリーダーシップは組織の状況によって異なってくる。 - リーダーとメンバーの社会的交換行動:
特異性クレジット、変革型リーダーシップ、サーバントリーダーシップ等、リーダーとメンバーの関係性に着目したリーダーの形がある。
モチベーション
- 内容理論と過程理論
- 目標設定理論
- 内発的モチベーション(フロー体験)
組織開発
- 変革のエージェント
- 組織と個人の関係
- ダイバーシティー/異文化コミュニケーション
作業部門
職場の安全
- 労働災害/過労死
- ヒューマンエラー
- 安全対策
- 安全文化
仕事の疲労とストレス
- 疲労管理と自覚症状
- ストレスとメンタルヘルス
作業と職場のデザイン
- ワークロード
- 人的要因のミスを減らすデザイン
- 快適な職場環境
消費者行動部門
消費者行動研究
- 目的と研究方法
- 研究成果の応用方法
購買意思決定
- 購買意思決定過程と影響要因
- 選択ヒューリスティック
- 購買後の評価
企業活動と消費者活動
- マーケティング=売れる仕組みづくり
- 消費者の説得過程
- 消費者保護(消費者心理悪用への対応)
特徴/有斐閣アルマとの違い
基本的に同様の領域について、コンパクトに要点をまとめているという観点で、以前に紹介した有斐閣アルマと同じ目的で活用できると思います。
本書と有斐閣アルマの違いは以下の点があります。
- トピックが広範囲
有斐閣アルマは、日常生活でのお役立ちを目的としていたため、実生活に密接したトピックに絞っていましたが、本書は研究対象領域を広く網羅しています。 - 記載が学術的
有斐閣アルマは、日常のストーリーを導入に、心理学的背景を説明する公正ですが、こちらは直接研究について記載しており、雰囲気がより教科書っぽいです。 - 公認心理師について言及
国家資格として2015年に制定された公認心理師を取得する勉強の標準テキストとすることも念頭に置かれています。本資格取得のための基本的概念が用語集としてまとめてあり、資格取得予定者には役立つかもしれません。
本シリーズとして詳細版が2巻以降続きます。
楽しい会社生活・プライベートのアイデアを考えるという観点からは、2巻(人事部門)と3巻(組織行動部門)の優先度が高いと考えており、今後紹介していきたいと思います。