会社のルールを変えても、そこまで行動が変わらないのはなんでだろう?
組織で働く際、メンバーが目標に向けて適切な行動を取ることが求められます。その時、より良い行動を促すために組織の公式ルールを変更することが考えられます。
しかしながら、その変更結果として、変更前と後で何も行動が変わらないということがあります。または、想定していたのとは異なる意図しない行動を誘発してしまうこともあります。
そんな時は、どちらも「集団規範」を理解することが必要かもしれません。
組織・職場には意識・無意識いずれにせよ職場規範=「職場の暗黙の掟」があり、その掟が公式ルールを打ち破ることがあるためです。
その「掟」を理解して施策を打つ配慮が行動変容には必要となります。
今日は、この「集団規範」について紹介します。
集団とは何か?
群衆との違い
集団は複数の人の集まりですが、一般的に以下の特徴が高まるほど集団であると言えます。逆に以下の特徴がない集まりは「群衆」となり、集団とは異なります。
- 共通の目的や目標を持っている。
- メンバーが互いに影響を及ぼし合う
- 所属している組織に好意や愛着を持ち始める
- 共有されたルールがある。
- それぞれに地位または役割がある
- 仲間意識、集団内と外を区別する意識がある
また、一般的に集団は参加や離脱をする際に、一定の手続きが必要となります。
街の交差点や電車の中では、人々は勝手に行動します。その場に対する帰属意識は無いです。
しかし、誰かが倒れて、助けることが必要となったら、救命するという目標、お互いの協力関係、看病する人・救急車を呼ぶ人・寝るスペースを作る人などの役割分担が発生し、群衆から集団に近づいていくといえます。
非公式集団
職場には公式集団(Formal Group)と非公式集団(Informal Group)が併存します。
公式集団 | 組織図や役割分担表に基づくオフィシャルな集団 |
非公式集団 | メンバー間の親密さや社交的関係に基づく非公式集団。 例:県人会、大学会、テニス部、社内派閥 etc… |
この非公式集団は公式集団の活動や職務の遂行に影響を与えることがあり、組織を適切に捉えるには双方の集団に目を向ける必要があります。
例えば、職場の公式の長である課長ではなく、長年勤める事務職の人が非公式には職場の風土に影響力を持っていてることもあり得ます。行動変容を進める際には、その集団を無視して効果をあげることは難しいです。
なお、非公式集団はメンバーの社会的欲求=何かに所属していることや、愛されている気持ちを満たすことで重要な機能を果たしており、必要な集団とも考えられます。
集団規範とは?
集団規範とは、公式に明文化されたルールにとは異なる仕事の進め方に関する暗黙の掟のことです。
集団内での「常識的」な行動や判断の基準として共有する価値観の枠組みが集団規範(GroupNorm)といえます。
例えば、同じ仕事をしているのに、メンバーが変わったことで出退勤時刻が柔軟になったり、逆に服装に厳しくなったり、行動に変化が起きることがあります。これは集団規範の変化と考えられます。
集団規範は、お互いの行動を観察しながら徐々に作られていくものです。
この規範が独自の雰囲気や特徴として組織風土となり、「○○グループっぽいね」という会話が成立し始めます。
また、「○○の常識は世間の非常識」というようなことも言われますが、これは○○という集団が独自の規範を創っていくことで、世の中の感覚とのギャップが生まれている状態です。
集団規範の問題
集団規範が強まってくると、規範を逸脱した行動が難しくなります。それは、規範から外れようとすると圧力がかかるためです。(斉一性への圧力)
仲間外れにされたり、嫌がらせを受けたり、個人にとって望ましくないことが起こることがわかると、拒否を恐れて集団から許容されようと行動を集団に合わせます。このような行動への影響を規範的影響と呼びます。
特に非公式集団は集団の安定のために結束力を高める傾向にあり、変化に対する抵抗勢力になりえます。
この斉一性への圧力や規範的影響の結果、職場には秩序が生まれるますが、この秩序が公式の規則よりも強く働くことがあり、結果公式の組織にとって望ましくない行動を継続してしまうことになるのです。
1924年から1932年にかけて、シカゴのウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で、人間の疲れと生産性との関係を調査する目的でホーソン研究が実施されました。
その結果、以下の引用の通り、作業員たちは独自の非公式な人間関係に基づく規範を作り、その規範が生産性に重要な影響を与えていたということが分かりました。
作業員の中には1日6600ユニット以上生産できる作業員もいたが、6600ユニット以上生産してしまうと、他のグループメンバーからの批判の対象となってしまう。生産性の高い作業員はしばしば「スピードキング」「カンパニーマン」などと呼ばれて仲間の攻撃対象となっていた。逆に生産性が低すぎてもグループの仲間に迷惑をかけることなり、批判の対象となる。つまり、生産性が高すぎる優等生にも低すぎる落ちこぼれにもなってはいけないという状況で、グループ全体としては実際の能力をはるかに下回る働きをするようになっていた。もちろん、グループメンバー間で起きたことを監督に密告してはならないというインフォーマルなルールがあり、グループ内の状況は会社側が把握できない状況にあった。
組織行動/須田敏子
結論
組織の風土・行動を変化させたい場合は、明文化されたルールと併せて、暗黙ルール=非公式集団とそのにある規範とのギャップを理解することが施策成功の第一歩。
- メンバーがどのような集団に属しているか
- どの程度の帰属意識の高さを、その集団に持っているのか。
- その(非公式)集団で求められる期待行動は何か
上記三点を理解することが、メンバーへの最良の対処方法を判断するために必要。
【引用した文献】