メンバーのやる気を高めるにはどうしたらいいのだろうか?
「職場のやる気アップ」や「モチベーションの向上」ということは、どの組織でも起こる基本的な職場課題の一つです。
「モチベーション」は、仕事に対してやってやろう!と立ち上がり、ゴールに向かって行動し、その努力を継続する力です。
そして、この力が強い個人や組織には、以下のプラスの効果があることがわかっています。
- 会社のROA(総資産利益率)向上
- 研究成果の向上
- 疲労回復を促進
それでは、この力を高めるにはどうしたらいいでしょうか。
モチベーションは人間の心理に関することなので、「100%いつでも当てはまる」理論はないです。
しかし過去の研究と実証から、「ある程度確からしい」という考え方はいくつか存在しています。
具体的には、以下の3点に着目して研究されてきました。
- 人間に存在する欲求(内容理論)
- 目標や誘因によって刺激され決まる行動選択(過程理論)
- 職務満足など主観的反応(職務満足度)
今回はいくつかモチベーションに関する理論と、実際に職場での活用する際に視点を紹介します。
欲求階層理論
概要
本理論では、人間の欲求は低次から高次に5つの階層があるとしています。
- 生理的欲求(空腹を満たす、渇きを満たす等)
- 安全的欲求(物理的・精神的な安全)
- 社会的欲求(集団への所属、愛情・友情等)
- 自尊的欲求(尊敬、地位、達成感等)
- 自己実現的欲求(成長、潜在能力の発揮等)
欲求は生理的欲求から始まり、満たされると次の欲求階層に移行していきます。
生理的欲求から自尊的欲求は「欠乏」に対して、「充足」するために動く欠乏動機といえます。よって、客観的に満たされるラインがあり、満たされると求めなくなります。
一方、自己実現的欲求は、なりうる最高の自分を主観的に求め続ける成長動機であり、無限に動機づけられることになります。
自己実現の領域に入ると、「利己」と「利他」の境目がなくなり、自分が楽しめて自分にとって意義のあることをやり続けることが、結果人のためにもなるレベルになります。
自己実現者に共通する15の特徴は、無邪気、許容、自発、課題、超越(孤独)、自律、新鮮な認識、神秘的体験、共同体感覚、少数との深い結びつき、民主的、目的手段の区別、ユーモア、創造、文化の超越というものがあります。
注意点として、本理論は従来人間形成に関わる理論で、仕事の欲求理論ではなく、階層的に順次欲求レベルを上がっていくという実証的な証拠は発見されていないです。
活用の視点
本理論は以下出てくる理論の欲求内容を広くカバーしています。
よって、職場のやる気を考える際に、生理的欲求から始まり、どの点が組織的に欠けているかを考えるチェックリストになると思います。
どこまでも動機づけられる自己実現型の人材が生まれる環境となるためにも、適切な承認、従業員への配慮、職場の安全性、十分な賃金など、環境整備をする際の共通言語になります。
X-Y理論
概要
本理論は、リーダーの持つ「人間観」に関するものです。
X理論のもとでは、マネージャーは部下に対して、本来的に仕事が嫌いで、責任を回避する人間だと考えます。
Y理論のもとでは、部下は仕事を前向きなものと捉えており、自ら奮い立たせて働き、責任を進んで引き受けるようになると考えます。
X理論に基づけば、部下の管理には強制やコントロールが必要となり、Y理論に基づけは、意思決定への参画や権限移譲などの環境を整えることが必要となります。
本理論ではY理論の方が正しいという主張がされていますが、実証的な証拠は無いです。組織の状況に依存する可能性もあります。
活用の視点
もし、日常の組織運営がX理論に基づいていて上手くいかない場合、Y理論の人間観での環境づくりを検討すると、新たな可能性が開けるかもしれません。
また、Y理論を信じて上手くいかない場合に、一度X理論の人間観に立ち戻って、引き締めるべきところがないかを検討することも必要かもしれません。
動機付け/衛生要因
概要
本理論では、人が仕事に満足する要因と不満を抱く要因が別にあると考えました。
人の満足を高める要因を「動機付け要因」、不満を高める要因を「衛生要因」と呼びます。
動機付け要因が満たされない場合、満足しないだけで不満になることは無いと考えます。逆に衛生要因が満たされない場合、不満を生みますが満たされた場合に満足を生むものではないと考えます。
主な動機付け要因と衛生要因は以下の通りです。
- 動機付け要因:達成、承認、仕事そのもの、責任
- 衛生要因:会社の方針、管理、給与、対人関係
動機付け要因は階層欲求での自尊的欲求・自己実現的欲求、衛生要因は生理的欲求・安全的欲求と結びつきます。
活用の視点
部下のやる気を高めたい場合は、同レベルの仕事の幅を広げる職務拡大ではなく、より一段高いレベルでの責任や技能が求められる職務充実が効果的と考えられます。
また、組織が「不満に満ち溢れている」のか、「不満はないが満足でもない」のかを見極め、環境整備する手を考える必要があります。
内発的/外発的モチベーション
概要
モチベーションについて、課題そのものに対する興味関心による自発的な満足感から発生する「内発的モチベーション」と、活動に対する報酬や罰など、結果への満足感から発生する「外発的モチベーション」があります。
研究の結果、内発的モチベーションの方が努力のインプットが増え、パフォーマンスを高めることが確認されています。
さらに内発的モチベーションは組織内で伝播していくことが確認されており、より組織へのプラスの影響があると考えられます。
内発的モチベーションは、自律性、有能さ(熟達志向性)、関係性を求める欲求から生まれます。
一方、外発的モチベーションには内発的モチベーションを低下させる可能性があることが示唆されています。
報酬なしで行っていたことが、一度報酬を貰うと報酬なしではやる気が起きなくなってしまう状況で、アンダーマイニング効果と呼ばれています。
活用の視点
内発的モチベーションを高めることで、組織のパフォーマンスも高まるとすると、いかに内面からの動機づけを刺激するかがポイントになります。
また外的報酬によりアンダーマイニング効果についても注意が必要です。
内発的モチベーションが「自律性・熟達性」から来ることから、本欲求を刺激する仕事や環境が重要と考えれます。
具体的には、以下の視点があります。
- できる限り自分のやりたいように仕事を進められるようにする
- 熟達のために、課題は簡単すぎず難しすぎない、かつ努力が必要とされる業務を設定する
- 自律性のために意思決定に参画してもらう
- 金銭的報酬の代わりに、称賛やフィードバックを提供する
マクレランドの欲求理論
概要
本理論では人間の欲求には3種類あると言われています
- 達成欲求:ある目標に向けて達成しようとする
- 権力欲求:人を支配・コントロールしようとする
- 親和欲求:友好的な対人関係を構築しようとする
達成欲求が強い人は個人として業績が良いことが分かっています。しかし、大きな組織の責任者として成功するかはわかりません。
また、親和欲求と権力欲求は成功するマネージャーと関係あり、低親和×高権力の人材が最も成功するようです。
活用の視点
達成欲求と業績に相関があり、かつ達成欲求は後天的に高まることがわかっています。
達成欲求の高い人は、成功と失敗が50%/50%の課題に対して最も満足感が高まります。
現実的だけども容易ではない目標設定をすることが、達成欲求を刺激するために必要といえます。
期待理論
概要
本理論では人のやる気は、「努力が報酬に結び付く可能性(主観的確率)」と「その報酬の魅力」で決まると考えています。
自分の仕事が成功して報酬が得られる、かつその報酬が自分の欲しいものと思えれば、行動が強化されることになります。
なお、本理論からは、過去に適切に処遇されない事例が散見されると、インセンティブが働かなくなり、努力は低下することも指摘されています。
活用の視点
メンバーの期待値を高めてやる気を引き出すには、メンバーが報酬として何を求めているのかを感知しなくてはいけません。
より個人のニーズへの理解を深めることが、行動を引き出すキーとなります。
職務特性理論
概要
職務内容に対する本人の心理状態から、やる気を検討している理論です。
より職務への満足感が高まれば、人はやる気がでると考えます。
具体的には以下の5つの観点での職務設計が重要となります。
- 技能の多様性:多様な業務が必要で、多様なスキルを活用できるか
- 仕事の完結性:最初から最後まで自分でやれるか
- 仕事の重要性:他人、組織、世の中へどれだけインパクトがあるか
- 自律性:進め方や日程にどれだけ自由が認められているか
- フィードバック:直接的で明瞭なフィードバックが提供されるか
上記1,2、3は仕事の有意義感、4は責任感、5は成果の把握が促進され、職務満足を高まります。
活用の視点
上記5要素のどの点に改善の余地があるかを検討することができます。
目標設定理論
概要
本理論では行動の目標設定がやる気を引き出し、課題の成果を促進すると考えます。
そのためには目標の「明確性」「難易度」「コミットメント」が重要な要素で、具体的で納得感のある目標設定が必要です。
なお、本理論によれば、高い目標設定はやる気を削ぐことではなくなるため、達成できなくても成果は高く失敗になりません。また、挑戦した過程で知識やスキルを身に着けることができ、内的報酬を得ることにもつながります。
活用の視点
いかに納得感のある目標を創れるかがキーで、上司部下間の率直な目標設定・事業環境・その背景に関する対話が求められます。
自己効力感
概要
結果の報酬そのものではなく、「自分なら結果を出せるかもしれない!」という自己効力感=ワクワク感・期待感がやる気に繋がると考えます。(Self Efficacy)
この自己効力感を高めるには、以下4つの方法があります。
- 成功体験を積む
- 代理体験(人の成功を見聞し取り入れる)を積む
- 言語的説得(励まし等)を受ける
- 情緒的体験(行動に伴う気分や落ち着いた気持ち)を得る。
活用の視点
上記4点の中で、自己効力感には成功体験による影響が一番大きいことがわかっています。
組織として、小さくてもいかに成功を積み重ねる機会を創出できるかが、やる気の鍵となります。
公正理論
概要
他者との社会的比較に基づく動機付けで、組織において公正な扱いや処遇を受けられない場合に動機づけられ、行動を変化させるという理論です。
公正さについては、「分配的公正」と「手続き的公正」があります。
分配的公正は、貢献と得られる報酬が一定のルールに則っていて、そのルールが他者にも同様に適用されている状態です。
公正なルールには以下3種類があります。
- 平等分配:皆に同じだけ分配する
- 衡平分配:貢献に比例して分配する(歩合給等)
- 必要性に応じた分配:必要の程度に応じて分配する(被災地へ重点的等)
手続き的公正は、貢献や結果の評価方法や決定過程が公正な制度や手続きに基づいている状態です。
公正な手続きを維持するには以下の点に考慮が必要です。
- 一貫性:いつも同じ手続きか
- 判断の不偏向:偏見に影響されないか
- 正確さ:正しい情報による判断か
- 訂正可能性:プロセス途中で訂正の機会があるか
- 代表性:組織の価値観が反映されているか
- 倫理性:道徳や常識に反していないか
活用の視点
メンバーの報酬分配においては、平等・衡平・必要性、いずれかでの公正さの説明ができるように実施することが必要です。
また、その意思決定過程においては、上記6点でのチェックも必要です。
まとめ
何の欲求が満たされていないか確認する
メンバーをどのような人間として考えているかを自覚する
満足していないのか、不満が無いのかを見極める
出来る限り自律的に仕事ができるようにアサインする
メンバーが何を報酬として求めているか聞く
仕事が有意義で責任があり結果がわかるものか確認する
納得感のある目標設定のための対話を行う
小さな成功体験を生みだし称賛する
報酬の分配と手続きが公正であることを確認する