皆忙しいのに、なんで時間をかけて評価制度を実施しなきゃいけないんだろう?
会社で評価の実施時期が来ると、
「時間の無駄」、「現場は忙しいのに。。。」
とネガティブな反応があります。
また、実施できたとしても
「納得感がない」「評価結果のフィードバックがない」
など不満が募ることがあります。
誰もハッピーに思えない可能性もある人事評価制度について、その目的を今回は考えてみたいと思います。
一般的な評価制度の定義
過去から様々な評価制度の定義があります。以下は一例です。
「従業員の日常の勤務や実績を通じて、その能力や仕事ぶりを評価し、賃金、昇進、能力開発等の諸決定に役立てる手続き」(白井,1982)や「個々の従業員の職務実績・職務遂行能力・勤務態度を合理的に測定しされた一定の評価項目に従って直接上司その他が評価する制度」(岩出,2016)がある。
人を活かす心理学 小野公一(編)/北大路書房
このような定義から、評価制度のアクションは「働きぶり・貢献を一定の基準で判断する」こととわかります。
一方で「その判断は何のためにするのか?」という目的は多岐に渡るようです。
主な目的として考えられるもの
限られた人件費予算の適正配分
もし評価制度が無かった場合に何が起こるか考えた際に思いつくが、「皆が最高で皆がハイパフォーマー」状況です。
マネージャーは自分の部下たちにできる限りの報いをしようと、昇進・昇給・昇格・ボーナス支給などを求めてくる可能性があります。
一方で企業運営には予算があり、人件費は無限にあるものではありません。
限られた中で、いかに抑制しながら分配していくか、そのルールを決めておくという意味で人事評価は意義があるかもしれません。
しかし、これは初めからマネージャーに人件費予算を渡し、その裁量で昇給や昇格をする権限を与えれば解決する可能性があります。
メンバー間の処遇差に対する不満抑制
マネージャーの裁量でお金を分配した際に考えられるのが、「マネージャーの好き嫌いで決まっている」という不満です。
子飼のような行き過ぎた関係性は問題だと思いますが、管理職が組織を運営していくうえで好き嫌いはある程度はあると思います。
その中でも、会社として一定の基準を設けて評価し、その結果を用いて配分することで、プロセスの公正さは高まり、処遇に差をつける場面において、メンバーの不満・動機づけにプラスの影響が考えられます。
適材適所実現
お金の分配以外の観点では、評価を通じて人材の強み・弱みを把握し、適正配置を実現することが考えられます。
その人の強みが活きる配置転換を実施することで、今いる人材がより輝ける仕事を提供することができるかもしれません。
ただ、この人材の把握は小さな会社であれば、敢えて定期的な人事評価の場を待たずとも、日頃から仕事を通じてわかることです。
逆に評価の場が無いと分からないという状態であれば、その上司部下の関係性のほうが問題があるように思います。
大企業において経営者や人事が現場に入り込む限界がある場合には、定期的な評価制度の実施を通じて人材のチェックをすることに意義はあるかもしれません。
人材育成の機会
評価制度について語られる際、必ず指摘されるのが「育成機能」です。
評価制度を通じて上司からフィードバックを得て、自分の過不足を知り、成長するための支援を得る。その結果、更なる高みを目指すことができる人材となり、評価を通じた人材育成が実現されると考えます。
この目的において評価制度を実施するのであれば、年1回の評価では足りないと思います。
そもそも上司が部下を気にかけ育成したい気持ちをもっていないと、制度を導入しただけでは育成の機会が増えない可能性があります。
また部下の目から見ても「お前から言われたくないわ」という上司だと、フィードバックが育成に繋がることは無いです。
よって、人の育成のためには、建設的な上司と部下の人間関係がまずは必要になります。
求める人材像の提示
評価制度は会社が求める人材像を伝えるメッセージとして機能します。
「組織として、どういう人材をリーダーとして処遇していくか」
その要点についてしつこくコミュニケーションするのと併せて、定期的にその要点に沿った人材の棚卸をすることで、求められていること・会社の戦略を、より伝えることができます。
そのメッセージを受けて、求められる人材を目指して行動を変化させるメンバーが出てくる一方、自分には合わないと新しい路を探すメンバーも出てくるかもしれません。
いずれにせよ、評価制度は会社として誰を処遇していくか、何を求めているかを伝えるツールとなります。
ただし、本機能が実現されるには、以下の点が重要になります。
- 基準への納得感
なぜその基準で人が選ばれるのか、どう組織の勝ちパターンに繋がっているのかがわからないと、メンバーから真剣に受け取ってもらえなくなってしまう。 - 評価結果への納得感
基準は納得できても、もし評価結果があからさまな年次順だとしたら、メッセージはただのお題目となり、組織として本気で考えていないと捉えられてしまう。
「何のために」が一番大事
様々な目的に波及する可能性のある評価制度ですが、実施において一番大事なのは、「何のためにやるのか」についてのクリアなコミュニケーションだと考えています。
実施目的に納得感が無いと、「このめちゃくちゃ忙しい時期に人事は(会社は)なにさせんだ」となってしまいます。
また実施する人事側も「申し訳ないな」となってしまい誰もハッピーじゃありません。
もしかしたら職場から煙たがられるかもしれないけど、「これは組織にとって大切なことなんだ!」と組織が思えれば、そこから段々と有効な施策になっていくかもしれません。
- 皆の処遇の納得感を高めて、モチベーション高く働ける環境を創る
- いつも予算オーバーしてしまう人件費を適切に管理する
- 新しいプロジェクトに必要な人材を棚卸する
- 会社として求めるリーダー像と戦略を徹底浸透させる
- まずは定期的に育成支援のための1on1を文化として定着させる
などなど。
明確な目標設定があれば、人事も現場も少し前向きになり、かつ効果測定が可能になることで施策のブラッシュアップができるようになります。
本来、評価制度は組織にプラスになるから実施されてきているのだと思います。
(評価制度の)そのあり方次第で、ひとは元気づけられ、やる気になり、学習・発達していくこともあれば、がっかりして、落ち込み、袋小路に追いやられることもある。自分さえしっかりしていたら、外からの評価などいらない、というひともいるだろう。しかし、それは幻想だ。自分を映す鏡がいる。評価とはそういう鏡だ。
金井壽宏/組織行動の考え方―ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト
それぞれの環境の中で、何が課題でなぜ実施するのかを探求し続けることが、組織に求められることだと考えています。
まとめ
評価制度は組織状況に応じてプラスにもただのコストにもなる
最低限の人材情報収集のためであればプロセスの効率化も要検討
組織課題に応じた目的を設定することが重要
以下の目的のために活用できる可能性がある。
- お金の管理をするための抗弁
- メンバーの動機付け
- 適材適所の実現
- 人材の育成
- 戦略の伝達
【引用文献】
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