意思決定を迫る際に、より自分に好ましい承認を引き出すには、どのような表現をしたらいいのだろう?
ヒューリスティックの記事でお伝えした通り、人間の中には直感的な自分と論理的な自分がいます。
この直感的な人間の心理を理解することで、どのように表現するのが自分の意図を伝えるのに有効であるかを知ることができます。
本日はこの表現方法=フレーミングについてご紹介します。
フレーミング効果とは
フレーミング効果とは、提示された条件が客観的に等価でも、条件を提示する表現の仕方が変わるだけで意思決定が大きく変化現象です。
問題の提示の仕方が考えや選好に不合理な影響を及ぼす現象ともいえます。
例えば以下の例を見てください。
10%の確率で95ドルもらえるが、90%の確率で5ドル失うギャンブルをやる気がありますか?
10%の確率で100ドルもらえるが、90%の確率で何ももらえないくじの券を5ドルで買う気がありますか?
ダニエルカーネマン ファスト&スロー(下) より引用
この選択肢、客観的にはどちらも100ドル払って、10%で当たりがある宝くじを引くという同じ現象を表しています。
しかし、二番目にだけ「イエス」と回答する人が多いという実験結果が出ています。
5ドルを「費用」と考えるか「損失」と考えるかで、同じ事実に対して異なった選択をしてしまうことを示しています。
これがフレーミング効果です。
具体的な例
研究の結果、様々なフレーミング効果が確認されています。
リスク選択フレーミング
以下の選択問題をご覧ください。
<状況>
- アジアで発生した病気で600人が死亡する予測が出された
- 次の2つの治療法から1つを選ばなければならない
- どちらを選びますか?
A. 600人のうち200人の命が確実に助かる
B. 600人全員が助かる確率は3分の1で、誰も助からない確率は3分の2である。
この選択肢では72%が「A」の選択肢を選びました。
次に、以下の選択肢が与えられました。
A. 600人のうち400人が確実に死亡する
B. 誰も死なない確率は3分の1で、600人全員が死亡する確率は3分の2である。
結果は78%が「B」を選びました。
どちらも、AとBは客観的には全く同じ選択肢ですが、その表現方法によって、受け止められ方に変化が生じたのです。(フレーミングによる選好逆転)
これは、利得(生存率)と損失(死亡率)いずれに焦点を当てるかで異なっています。
人間は、利得にフォーカスされると確実な結果を好むリスク回避型になり、損失にフォーカスするとギャンブルを許容するリスク追求型になるといえます。
この根本にある心理は、利得は最初のうちは嬉しいですが、その喜びは量が増えるにつれてと嬉しさが逓減し、損失の悔しさも多くなると逓減する(マヒする)ためと考えられます。
投資やギャンブルで負けてくると、よりリスクを取り出し、勝ってくると大きく勝負に出れない心理に通じていると思います。
確実な選択肢を提案したい場合は、その利得をアピールし、リスクを取った提案をしたい場合は、その損失をアピールすることで、自分の想いが伝わるかもしれません。
特性フレーミング
健康を気にする人が、次のいずれのラベルの肉を手に取るでしょうか。
A. 赤身75%
B. 脂身25%
どちらも肉の成分は同じですが、「A」の方が手に取られます。
これはシンプルに選択者が好むポジティブな面を強調したほうが、選ばれやすくなることを示しています。
その理由は、単純にその表現から直感的に良いこと(より健康的な食品とそれを食べる自分)が想起されるため、差が表れると考えられています。
医療行為における手術選択率にも、この特性フレーミングが表れます。
A. 手術後1カ月の生存率は90%の手術です。
B. 手術後1カ月の死亡率は10%の手術です。
Aを見せられた方がBを見せられた場合よりも、手術を選択する医師が多かったという結果になってます。
相手が何に重きを置いているのかを考え、その点をポジティブに示す表現が重要になります。
説得する際のフレーミング活用
交渉時に相手を説得する際には、「いくら得られるか=利益のフレーミング」にお互いが焦点を当てて話すほうが、「いくら損するか=損失のフレーミング」に焦点を当てるよりも、お互いの利益が最大化する可能性が高いと言われています。
お互いの言い分を認めあえる統合的合意に至るためには、利益のフレーミングが有効です。
メンタルアカウンティングとサンクコスト
A. の女性
- 80ドルの芝居のチケットを事前に2枚購入
- 劇場についてチケットを無くしたことに気づく。
- 劇場で再購入するか?
B. の女性
- 劇場で80ドルのチケットを2枚買おうとする
- チケット代として用意した160ドルが無くなった
- 劇場でクレジットカードで再購入するか
この選択肢では、Aのケースでは買わずに、Bのケースでは買うという選択がされる結果となりました。
これは、人間の心の中に利用目的ごとの財布=メンタルアカウンティングがあるためです。
Aのケースでは、チケットとして既に160ドル払っているので、同じ芝居に計320ドル払うことを割高に感じてしまいます。
Bのケースでは、一般的な収入が減ったと認識され、160ドル所得が低い状態でこの劇を見るかという選択肢になり、許容されました。
客観的な事実は「320ドル払って劇を見る」ということに変わりはないです。
このような事態を防ぐためには、より広いフレーミングで捉えなおし、現金を失った場合に購入するのであれば、チケットを失った場合でも購入すると気づけるようになる必要があります。
オプトイン・オプトアウト
各国の臓器ドナーへの同意者には大きな隔たりがありますが、その合意採択方法に共通の違いがあります。
高い比率で合意を得られている国は、「同意しない場合はチェックしてください」というオプトアウト方式、低い合意率の国は、「同意する場合はチェックしてください」というオプトイン方式が採用されています。
何か施策に対して従業員の合意が必要な場合は、デフォルトとして合意、異議がある場合には申請してもらうという方式が有効だと考えれます。
結論:表現の注意点
- リスクを回避した確実策を提案したい場合は利益にフォーカス
- リスクを追求したギャンブル策を提案したい場合は損失にフォーカス
- 相手が求めている要素に対してポジティブな表現を選択
- 交渉時は利益に焦点を当てる
- 消費選択をする際には広いフレーミングで考える
- 多数に対して合意取得する際はデフォルトは合意設定で確認する
【主に学習した本】