意思決定

【直観力】意思決定時に起こる心理学的誤り【ヒューリスティック】

何かを選び取るとき、自分としては正しいと「直感的」に思っていても、落ち着いて考えると明らかに間違っているということが、人間には起こりえます。

今回は、なぜこのような明らかな間違いを犯してしまうのかについて、具体的な例を用いながら紹介し、最後に個人が意思決定をする際の注意点を検討します。

明らかに間違った選択をしてしまう理由

自分の中の二人の自分

人間の中には、「経験に基づき直感で瞬間的に考える」自分と、「論理や事実に基づきじっくりと考える」二つの自分が併存しています。

そして人間には処理できる情報量の限界があることから、意思決定の際には一番結果が最大化する選択肢までは見つけきれません。

そして最上級に良い選択肢の代わりに一定のラインで「満足できる」選択肢を探し求めるようになっています。(満足化の原理)

論理的な自分の役目

論理的にじっくり考えると労力がかかるというのは、経験から想像できるのではないでしょうか。

この論理的な自分は、合理的な行動を取るように、自分を見守ってくれています。いわゆるセルフコントロールの役割を担っています。

よって、論理的に考える自分がフル回転しだすと、頭がいっぱいになり、セルフコントロールにそのメモリーが割かれず、軽率な行動を取ってしまいます。

例えば、仕事がひっ迫していてイライラで頭がいっぱいになっているときは、普段であれば健康のために節食できるのに、急にバカ食いしてしまったり、普段であれば相手に尊敬を示すことができるのに、急に人にきつく当たったりしてしまいます。

直感的な自分の役目

直感的な自分は、瞬間的に判断できるので、考える負荷を軽減するのに大変便利です。

情報処理量の限界から、全てのことに頭をフル回転させていたら、人は生きていけません。よって、通常時は「経験に基づく直感」が意思決定時のメインの自分になります。

そんな中、直感的な自分が、簡便で「比較的正解に近い」答えを見つけ出してくれるのです。

しかしあくまで、「比較的近い」だけであり、論理的に落ち着いて考えると明らかに間違っているということがあります。

この直感的な自分が、時にあり得ない間違いを犯してしまうのです。

ヒューリスティック

直感的な自分の機能として備わっているのが「ヒューリスティック」です。主に以下の特徴があります。

  • 最適解を必ず導く「アルゴリズム」に対比される概念
  • 迅速かつ効率的に答えを出すことができる
  • 状況によっては不適当で一貫性がない答えを導いてしまう

例えば、以下の問いに直感で答えると、間違える人もいるのではないでしょうか。

バットとボールが合わせて110円で売られていました。

バットはボールより100円高いです。

ボールはいくらでしょうか?

直感的に10円と思いついた人がいるかもしれませんが、二次方程式を解けば、その解は5円とわかります。

全てのバラは花である。

一部の花はすぐに枯れる。

したがって一部のバラはすぐに枯れる。

この三段論法は直感的に正しいと思う方がいるかもしれませんが、ベン図を描けばわかる通り、すぐに枯れる一部の花にバラが全く含まれないということは論理的にありえるため、この論法は誤っています。

では、具体的にどのようなヒューリスティックがあるのでしょうか。

具体的な間違い例

利用可能ヒューリスティック

直感的な自分は、自分が知っていること、経験していること、今理解していることなど、利用できる情報を優先的に頼りにながら意思決定します。

アルファベット「K」で始まる英単語と、3番目に「K」が使われている英単語、どちらのほうが多く存在するでしょうか?

実験結果によると、Kで始まる英単語の方が多いと回答する人が多いようです。

これは、パッとKで始まる単語をいくつか思い出せますが、3番目がKの単語を思い出すのが難しいため、Kで始まる単語の方が多いと感じるようです。

飛行機の事故を、じつは死亡率の高い一般的な病気よりも恐れることも利用可能ヒューリスティックの一例といえます。ニュースなどでの大惨事を見たことで、より危ないものだと考えてしまっています。

代表性ヒューリスティック

母集団をどれくらい良く代表しているかという情報を元に、直感的に答えを出すことがあり、代表性ヒューリスティックと呼びます。

大学のキャンパスを白衣を着ている学生が歩いていました。薬学部でしょうか、文系の学部生でしょうか。

白衣を着ている=薬学を学ぶ学生の特徴を表しているため、薬学部と考える人は多いようです。

ただ、単純に数で言ったら文系のほうがはるかに生徒数が多く、その学生が文系の学部生である確率の方が高いです。

以下、有名な「リンダの実験」があります。

リンダは三一歳の独身女性。外交的でたいへん聡明である。専攻は哲学だっ た。学生時代には、差別や社会正義の問題に強い関心を持っていた。また、 反核運動に参加したこともある。

「リンダは銀行員か、それともフェミニスト運動に熱心な銀行員か、どちらだと思いますか」─ こう質問すると、全員が口をそろえて、ただの銀行員 ではなく「フェミニスト銀行員」だと答える。

ダニエル カーネマン/ファスト&スロー より引用

この実験の設定と質問の場合、ただの銀行員はフェミニスト運動に熱心な銀行員を含有する概念であり、銀行員である確率の方が高いです。

このように、何かを代表する情報を与えられたときに、より適切で可能性が高い選択肢を捨ててしまうことが起こりえます。

カジノのルーレットで、赤が6回続くとそんなことはあり得ないから、次は黒が来る確率が高くなると考えてしまうのも、本ヒューリスティックの一つで、ギャンブラー錯誤と呼ばれます。(確率はいつでも1/2)

アンカリング(係留)と調整ヒューリスティック

直感的な自分は最初に与えられた情報を、無意識のうちに初期値として活用し、そこから物事を考えてしまいます。

例えば、前回の結果を基準として、今回がいくつになるのかを推測するのは、係留と調整の例と言えます。

このアンカリングは以下の例のように、全く無意味な数値でも起こります。

円盤には0から100までの数字が書かれているが、一つの円盤は必ず10で、もう一方は必ず65で止まる仕掛けにした。そしてオレゴン大学で参加者を集め、二つのグループに分け、円盤を回し、止まったときの数字をメモするように指示した。当然ながら片方のグループでは10で、もう一方のグループでは65で止まる。その後に私たちは二種類の質問をした。 

国連加盟国に占めるアフリカ諸国の比率は、あなたがいま書いた数字よりも大きいですか、小さいですか?

国連加盟国に占めるアフリカ諸国の比率はどのぐらいでしょうか?

抽選用の円盤(たとえ仕掛けのない本物だとしても)の示す数字が何かに役立つことなど、どう考えてもあり得ない。だから、実験参加者はその数字を無視すべきだった。だが彼らは無視できなかった。10を見せられたグループの答えた比率の平均は二五%、65を見せられたグループは四五%だったのである。

ダニエル カーネマン/ファスト&スロー より引用

また、このアンカリングは専門家であっても起こってしまうことがわかっています。

事前に金額を見せられた不動産仲介業者の物件見積もりや、過去の量刑事例を見せられた裁判官の判決方針等、影響が確認された実験があります。

感情ヒューリスティック

自分が好きなものは、正しいと思ってしまう傾向があり、感情ヒューリスティックと呼ばれます。

自分の好きな芸能人が言っていることに追従する、政策関わらず自分の好きな政党を支持する、尊敬する先輩が言っていることは吟味せず必ず正しいと思ってしまう。

いずれも感情が直感する自分の選択を助けている状況です。

意思決定時に確認すべきポイント

上記通り、直感的な自分は色んな状況・情報・経験によって、歪んだ意思決定をすることがあります。

本当に大事な決定をするときには、ヒューリスティックの観点から以下の点について確認してみるのが良いと思います。

  • まずは、ヒューリスティックに自覚的になる
  • 自分が持っていない情報がないか、他人の意見を確認する
  • ベースとなる統計・数値データ・事実を確認する
  • 起こる確率を計算する
  • 何か先行する情報に引っ張られていないか自分に聞く

結論

人間は論理的な面と直感的な面がある。

基本は直感的な自分が判断している。

大事な意思決定時は客観的な事実の確認を念のためにしておく。

【主に学習した本】