組織にとって効果的な意思決定ができるようになるには、どうしたらいいのだろうか?
組織のパフォーマンスを最大化するためには、組織としてどのような意思決定をするかが、大きな影響力を持っています。
より良い意思決定を実現するためには何が必要であるかを学ぶために、マイケル・ロベルト著「決断の本質」を紹介します。
本書は数々の研究・調査、ケーススタディを通じて得られた、良い意思決定の要諦を示しています。
結論として本書は「意思決定プロセスの質」を高めることが、意思決定の結果の質を高めることに繋がると主張しています。
「何を解決策として行うかを考える」よりも、「どのように解決策を決めるかを考える」方が重要ということです。
私が本書で主張したいのは、リーダーは自分の意思決定の有効性を判断するのに結果を待つ必要はないということである。結果を待つのではなく、重大な選択をするために用いているプロセスを綿密に検討すべきなのだ。(中略)
本書の論点の中心は、プロセスの質が高ければ、実行後の成果がプラスになる可能性も高いというところにある。
マイケル・A・ロベルト 決断の本質―プロセス志向の意思決定マネジメント.
そして意思決定プロセスの質を高めるためには、
- 建設な意見の対立を促しながら、実行のコンセンサスを築くこと
- 意思決定の方法を、適切に決定すること
の2点が重要であるとしています。
意見が対立することで良いアイデアが出やすくなり、またコンセンサスが築かれることで決定事項が実行される可能性が高くなり、結果として良い意思決定になるためです。
図式化すると以下のようになります。

本主張に基づけば、自組織の意思決定力を高めるために問うべきことは、
- 適切な意思決定プロセスが準備されているか?
- 建設的な意見の対立が起きているか?
- 皆で実行することの合意が形成されているか?
の3点になります。
以下の目次をチェックリストとして活用して、組織の改善点と対策のヒントを探っていきたいと思います。
適切な意思決定プロセスが準備されているか?
適切な意思決定プロセスを形成し、建設的な対立と持続性のあるコンセンサスを作り上げるためには、4つのポイントを決める必要があります。
- コンポジション(メンバー構成)
- コンテキスト(仕組み・ルールの設定)
- コミュニケーション
- コントロール
メンバー構成を決める
良い意思決定をするためには、検討事項に対してベストな人材によるチームが必要です。
その選抜は以下の4つの基準で選ぶべきで、肩書や身分で決めてはいけないと述べられています。
- 専門知識がある人
他の人が持っていない重要な情報保持者を選ぶ。 - 実行時のキーパーソン
実行プロセスのキーパーソンを早期に巻き込む。 - 信頼できる腹心
心から本音で相談できる人を入れる。 - メンバーの多様性を促進する人
様々な視点からの意見が出るように人選する。
適切な仕組み・ルールを設定する
意思決定プロセスには、その背景にあるルール・仕組み・価値観などが、メンバーの行動に大きな影響を与えます。
よって、その背景を適切に設定することは、プロセス向上に重要な要素になります。
まずは、レポートライン、管理方法、賞罰の基準等、構造上の背景が適切であるかはチェックが必要です。
さらに、心理的な面でも、プロセス向上のために配慮が求められます。
特に、「心理的安全性」を作り出すことは意見の対立を促すためにも重要な対応事項になります。
心理的安全性については、以下の記事をご参照ください。
良い議論方法を利用する
議論の活発さは、採用する対話手法によっても異なってきます。
本書では、コンセンサス手法、6色ハット発想法、弁証法的討議と悪魔の代弁者という対話手法が紹介されています。
実際どのような方法が自組織の議論活性化に有効であるかは、組織の状況に応じて検討が必要となります。
コントロール方法は適切か
リーダーは組織に対して多大な影響力を持っているため、リーダーのコントロール方法によっては、議論を支配してしまい、意思決定の質・推進の実効性共に棄却してしまう可能性があります。
よって、リーダーがどのようにプロセス上の役割を担うかは重要な検討要素になります。
特に以下の4点については事前に決めておく必要があります。
- 検討中、どのタイミングで、どのように自分の意見を伝えるか
- 検討の方向性にどこまで、どのように介入するか
- 議論上、どの様な役割を演じるか(賛成派/反対派等)
- どのタイミングで最終結論を出すか
建設的な意見の対立が起きているか?
意思決定の成功における、2つの重要なポイントの内、一つは「意見の対立推奨」です。
理想的な意見の対立は、
- 異なる意見を率直に交わし始め、
- 議論を促進し、
- 皆の一つのアイデアとなる
ことです。
それぞれのステップに問題がないか確認してみましょう。
そもそも率直な意見交換がされない
率直な意見交換が起こらない理由は、「構造的な要因」と「文化的な要因」があるようです。
構造的には、
- 組織が複雑すぎないか
- 役割分担が不明瞭ではないか
- 仲介的・参謀的立場の人により情報が滞っていないか
- メンバーが馴れ合いの関係となっていないか
について、チェックが必要です。
文化的には、
- 身分の違いが対話を阻害していないか
- 組織でよく使われる言葉が対話を阻害していないか
- 事前に結論の方向性が固定されてしまっていないか
- 集団規範によって自由な発言が妨害されてないか
という点が考えられます。
集団規範については、以下の記事をご参照ください。
議論が促進されない
異なった考え方を促すために、4つの手法が紹介されています。
- 他人の立場に立って行うロールプレイ
- 未来を想像し、そこから様々な展開をシュミレーションするシナリオ分析
- 枠組みを指定し、その中で検討する概念モデル
- 立場を与えて議論するポイント・カウンターポイント
どの手法が効果的かは組織の状況に依ります。
対決が始まっても上手く解決されない
異なる意見の対立が解決されない場合、その対立が認知的な対立ではなく、感情的な対立になっている可能性があります。
建設的な解決には、目標・進め方に対する対立促進と共に、好き嫌いなど感情的な対立は抑えていく必要があります。
感情的な対立については、以下の記事をご参照ください。
実行することの合意が形成されているか?
本書では、意思決定事項の実効性担保のために、「コンセンサス」が重要であると主張しています。
このコンセンサスは、本書の中で以下のように定義されています。
コンセンサスとは、全員一致、または意思決定のすべての点に対する広範な同意、あるいは組織のメンバーの過半数による完全な承認という意味ではない。意思決定をするのがリーダーではなくチームだという意味でもない。人々がその決定の実行に同意して協力するということがコンセンサスの意味である。その決定に完全に満足しなくても、人々が最終的な選択としてそれを受け入れていればよいのだ。 コンセンサスには重要な要素が二つある。それは、決定された行動方針に対する高度のコミットメント、およびその理論的根拠に対する強固な共通の理解である
マイケル・A・ロベルト 決断の本質―プロセス志向の意思決定マネジメント
コンセンサスの要点は、人々の満足感ではなく、「なぜそうなったのか」という理解と、「実行への心からの同意」にあります。
同意できず議論を永遠に繰り返してしまう
この問題は文化的な要因が強いと著者は述べています。
- 相手を批判することが非公式に承認されてしまっている「ノー」の文化
- 表面上同意し、水面下でひっくり返そうとする「イエス」の文化
- 確実性を追い求めすぎる「おそらく」の文化
いずれも、遡ると過去の成功要因であることが多く、一朝一夕に変えることは難しいです。
変革の第一歩は、リーダー自ら新しい行動の要点を示し、自ら行動を体現し、建設的な対立を支持し、認めていくことが第一歩になります。
決定に不公正感がありコミットできない
満場一致でなくてもコンセンサスが得られるのは、「公正なプロセス」が寄与しています。
人が意思決定プロセスを公正だと感じる場合は以下のケースがあります。
- 意見を述べる場、反対理由を話しあう場が十分にあった
- 検討がオープンになされていた
- リーダーが自分の意見を注意深く聞いて真剣に検討してくれた
- リーダーの最終決定に影響を与える機会があった
- 最終決定の理論的根拠が明快に理解できる
要するに、「他人の意見を心から尊重していることを示すこと」がコンセンサスを得るためにリーダーへ求められる行動になります。
本書にはその具体的な方法が紹介されています。
皆の想いが収束しない
意見が発散し、なかなか同意が得られない場合が考えられます。
そのような場合は最終決定まで待たずに、議論の要所で都度中間合意形成していくことが有効です。
細かく合意を形成していく良さは、議論が前に進むだけでなく合意できたという事実が一つの成功体験となり、対立関係に協調関係が生まれることにあります。
結論
意思決定の成功には意思決定プロセスの構築が重要
適切な意思決定は、アイデアの質と実行力を向上させる
建設的な意見の対立が起きない原因を特定する
コンセンサスが得られない原因を特定する
【今回紹介した本】