書籍紹介

【現状分析が肝】良い戦略・悪い戦略(リチャード ルメルト)【行動に繋がる】

組織の成果を最大化する「良い戦略」とは、どういうものだろう。

組織を一枚岩にして競争に勝つために、事業戦略は重要な役割を果たしています。

しかし、心が惹きつけられ、勝利に向かって行動が促進されるような戦略というのは、なかなか出会うことができないのではないでしょうか。

今回は、戦略の研究家リチャード・ルメルトの著書「良い戦略 悪い戦略」から、成功する戦略のポイントを紹介します。

悪い戦略とは

勝利につながる「良い戦略」を学ぶために、まずは「悪い戦略」の特徴について確認します。

本著の中で悪い戦略について、4つの特徴が示されています。

  1. 空疎である
    不必要に難しい言葉が並ぶが、実際の内容が無い。
  2. 重大な問題に取り組まない
    競争するために取り組むべき課題への言及が避けられている。
  3. 目標を戦略ととりちがえている
    単に目標、願望、希望的観測を語っている。
  4. まちがった戦略目標を掲げている
    本質的課題から遠い、または実行不能な目標が提示されている。

「ビジョン」や「価値観」などを示すことで、それをもって戦略としてしまうケースは思い当たる節があるのではないでしょうか。

またシンプルに示せることを横文字やバズワードを使って、それっぽく見せているだけというケースもあるようです。

さらに戦略の前提となる現状分析が軽く済まされていることもあり、これは臭いモノには蓋をしたいためだと指摘されています。

結果として、「行動に結びつく方針が少ないか、または全く無い」お題目が「戦略」として世にはびこることになるのだと考えられます。

現状分析に全てをかける姿勢は、企業再生人の三枝匡氏がいう「企業変革は強烈な反省論としての1枚目で全てが決まる」という考え方と同じだと思いました。

三枝匡氏の著書と経営論については、以下をご参照ください。

良い戦略とは

では反対に、「行動につながるような良い戦略」とはどういうものでしょうか。

本書では良い戦略について、以下の通り記述されています。

良い戦略はとるべき行動の指針がすでに含まれている。細かい実行手順が示されているわけではないが、やるべきことが明確になっている。「いま何をすべきか」がはっきりと実現可能な形で示されていない戦略は、欠陥品と言わざるを得ない。

良い戦略 悪い戦略(リチャード・ルメルト)

組織で人事として働いていると、現場とのコミュニケーションで「幹部が言ってるゴールは分かったど、実際何を頑張ったらいいか分からない」といった主旨のことを聞くことがあります。

一方で幹部からは「現場には実行力が足りない」という嘆きがあることも。

本書の主張に依れば、「ゴールは分かったけど、そこにたどり着く道筋が見えない」と従業員に言わせるのは「戦略の構想力不足」ということになります。

良い戦略のカーネル(核)

良い戦略には、しっかりした論理構造があり、著者は「カーネル(核)」と呼んでいます。

戦略のカーネルは、以下の三つの要素で構成されます。

良い戦略のカーネル
  1. 診断
    現状を診断し、取り組むべき課題をみきわめる。
  2. 基本方針
    診断で見つかった課題にどう取り組むか方針を示す。
  3. 行動
    基本方針を実行するための一貫性ある行動

このカーネルは上記で掲載した三枝匡氏の会社変革のための「1枚目、2枚目、3枚目」のコンセプトと近似しています。

戦略は、「本質的課題にリソースを集中投下すること」であるため、何をするかと同じくらい、何をしないかを示すことが大事とのことでした。

また本質的課題にたどり着くためにも、戦略立てる作業の多くは、何が起きているのかを整理することとなるとも記されていました。

結果として戦略は「何をやるか」だけでなく「なぜやるか、どうやるか」を示すことでき、組織を一枚岩に束ねることが可能となります。

「なぜとどのように」を示すことで人を動かす戦略になるという点は、サイモン・シネックの「Golden Circle」の考え方に繋がると思いました。

本質的な課題を見極めるために

良い戦略と悪い戦略の比較から、成功する戦略のためには、診断から逃げずに現状を見つめ、集中すべき課題を抽出できるかがキーであるとわかりました。

この課題を見極めるために必要なものの一つとして「知識」の重要性が述べられていました。

ただし、知識と言っても常識や皆が手に入る情報ではありません。

本書では最も価値のある知識として「企業にとって独自の知識、自ら発見あるいは開発した知識」を挙げています。

これは毎日の事業運営で得られる生の情報(顧客・競合情報)になります。

よって、現場の情報を経営戦略の策定材料として集約できるかどうかは、組織能力として大切ではないかと考えました。

そしてこの能力を高めるために、人事として現場代表・幹部目線双方から貢献の道があると思います。

具体的にはサイバーエージェントの人事で実現されている「コミュニケーションエンジン」の発想が活かせます。

サイバーエージェントのクリエイティブ人事の書籍紹介は、以下をご参照ください。

まとめ

悪い戦略は具体的な行動に繋がらない。

これは診断(現状認識)から逃げているため。

良い戦略は本質的な課題にリーチしていて一貫した行動を示せる。

日々の事業運営で得られる情報が戦略策定のための貴重な財産。

【引用文献】