環境や状況に合わせて組織を変革しようとするときに、「組織開発」と呼ばれる手法が検討されることがあります。
今回は、この「組織開発」について、実施する際に注意すべき点を紹介いたします。
組織開発とは
「組織開発」とは特定の手法や理論を指しているものではなく、ある組織に対する働きかけのカテゴリーのようなものです。
よって、統一的な定義はありませんが、以下の定義を紹介します。
行動科学の知見や手法を用い、ヒューリスティックな価値観に基づきながら、組織の効果性を高めることを目的として実施される。組織内のプロセスや組織文化などの人的要因を含めた組織の諸次元に対して、協働的な関係性を通して働きかけていく、計画的、長期的、体系的な実践。
産業組織心理学を学ぶ/金井篤子
様々な定義がある中で、ポイントとなるのは以下の要素です。
- 行動科学の知見に基づく手法を用いること
- 組織の効果性や健全性=パフォーマンス向上を目的とすること
- 組織の「プロセス」を中心に働きかけること
- 計画的に実践されること
代表的なモデル
レヴィンの3ステップモデル
本モデルは組織開発の歴史で最も古いモデルといわれています。
組織を変革する際に、現状「解凍」し、新しい価値観や業務プロセスに「移行・変化」し、「再凍結」することで一般化するというモデルです。
そして、「解凍」が起こるためには、目の前のヤバい状況が自分事として捉えることができるかが第一歩となります。
課題を外部要因に帰属させ続けると、変革は始まりません。
本モデルはシンプルでわかりやすいですが、具体的なアクションがわからないという指摘があります。
レヴィンのアクションリサーチ
本モデルは以下のステップ(ループ)で、クライアントの課題を解決しつつ新しい知識を得ていくものです。
- 課題の特定:何が現場の問題であるか、当たりをつける。
- 仮説の構築:その課題がなぜ起きているのか、仮説を立てる。
- 仮説の検証:質問やインタビュー等を通じて、仮説を検証する。
- データの解釈:得られたデータから、解くべき課題を特定する。
- 課題の特定へ戻る。
具体的な介入方法
実際に実践者が組織に入り込む際には、以下の手法が考えられます。
- 個人に対するコーチング
- グループに対するプロセスコンサルテーション
- 組織に対するサーベイ
個人の仕事のやり方(Doing)や価値観やあり方(Being)について、対話を通じて明確化して伴走してくれるのがコーチングです。
プロセスコンサルテーションについては、別記事で紹介いたします。
サーベイはモラールサーベイやエンゲージメントサーベイと呼ばれるものを使って、組織の状況を診断し、その診断結果を元に介入していく方法になります。
自身の経験から思うのは、いずれのレベル感への介入においても、「課題が何であるかの特定」と可能であれば「仮説を持つ」ことが大事だと痛感しています。
例えば「モチベーションを高める」という漠とした目的より、もう一歩でも踏み込んだ課題意識と、その原因への仮説を持って介入できると、より意義のあるアクションに繋がります。
一方、何となく実施してしまうと、何となく良さそうな組織と悪そうな組織というラベルが分かるだけで、So what?とアクションに繋がらないことがあります。
組織開発は現場の工数を使ってしまうものなので、できる限りの計画・企画が実践者には求められると考えています。
組織開発成功への大事な要素
組織を変革していくうえでは、以下の要素が大切になってきます。
オーナーのコミットメント
組織開発は通常の仕事に加えて実施をお願いする「余分な仕事」になります。よって、組織としての必要性をトップが示すことが、理解と協力と成果を生むために重要です。
トップから「やりたければやれば」くらいのコミットメント状況であれば、やらないほうがいいとさえ思います。
その状況においては、オーナーが必要性を強く感じることが第一歩で、そのためのコミュニケーションが必要となります。
実践者の適正
実践者には以下の適性や要件が求められます。
- 自分を律する力
曖昧さや不透明な環境で意思決定や解釈を進めていくストレス耐性 - 対人関係構築力
信頼関係なくして成功無し。傾聴し、受容し、対話するスタイル - コンサルスキル
診断の実施や介入の経験、組織開発知識、組織や事業への理解。
抵抗への理解
組織開発は既存のやり方を変えることを求める活動であるため、抵抗があって当たり前と言えます。
この抵抗とどのように付き合っていくのかが、成功への要点の一つとなります。
例えば、慣れたプロセスを捨てて新しいことをやることの面倒くささ、組織で力を持つ人の意向に反する力関係、今までの価値観や規範が変わってしまうことへの恐怖・未知への不安などが考えられます。
いずれにおいても、抵抗に対しては以下の行動が効果的です。
- 傾聴と共感を通じて信頼関係を構築する。
- 不信感を生まないように精確な情報伝達を行う。
- 公正な手続きに則って行っていることを示す。
- キーパーソンには参画してもらう
- そもそも危機意識を高める
そもそも危機意識が無いと何をやっても空振りに終わります。危機意識を高めるには、悪い情報も含めできる限りオープンに情報共有していくことが必要になります。
まとめ
組織開発は新しい仕事のやり方に変化しながら個人が能力を取得すること
長期的な取り組みになる可能性大かつ現場の工数を使ってしまうもの
よって実戦時には、即効性が無かった場合でも続けるだけのコミットメントと課題意識が実践者・オーナーには求められる。