経営のセンスを磨くために、日々どんな勉強・努力ができるだろうか。
経営のセンスを磨くには、実際にビジネスをする中で成功と失敗を繰り返し、感覚を磨いていくことが、最も中心になると思います。
その上で、日々思考の訓練として何か努力できないかという悩みに、一つの提案を与えてくれるのが、本書「逆・タイムマシン経営論」です。
本書は「複雑に変化していくビジネスの背後にある本質的な理論を見抜き、経営センスと大局観を体得する」ための「知的鍛錬の新しい『作法』」を記した本だと冒頭に紹介されています。
今回は、本書を紹介します。
逆・タイムマシン経営論のやり方
用意するものは過去の新聞や雑誌等のメディア資料のみ。
その記事を読みながら、当時騒がれた事象を冷静に見極め、そこにあった本質は何であるのかを考えるのが、逆・タイムマシン経営論のやり方です。
要するに「流行の言葉に踊らされず、過去の成功・失敗の要因を思考する」ことが、経営の本質や大局観を養うのに意味があるということのようです。
バズワードの熱狂と迷走から本質を見ていきます。
「本質とは、そう簡単には変わらないもの。それを知るには歴史的変化を辿ること」
「新聞・雑誌は寝かせて読め」
「われわれが歴史から学ぶべきなのは、人々が歴史から学ばないという事実だ(ウォーレンバフェット)」
逆・タイムマシン経営論(楠木建/杉浦泰)
主な学習ポイント
本書ではその思考の種として、以下3つのトラップを紹介しています。
本トラップの背後にある本質的なポイントを思考することで、センスが高まるようです。
飛び道具トラップ
飛ぶ道具トラップとは、「これをやれば成功する」という「ウルトラC」に踊らされてしまう罠です。
例として「サブスクリプション」がキーワードとして挙げられていました。
サブスクリプションについては、アドビが成功したことで、「これからはサブスクの時代だ!」という流れができました。
しかし、そもそもサブスクは新聞代など昔からある手法であり、サブスクにしたからと言って成功するものでもないことが、歴史を学ぶことでわかります。
アドビにとっては、そこに製品・市場・競合とを絡めた状況と戦略があり、その戦略のひとつの要素して、サブスクが手段として採用されたに過ぎないということを示してくれます。
「サブスクが効果的」と短絡的に考えず、「全体のストーリーの中での位置づけ」を考え見極めるのが、本書で提案されている学習作法になります。
本書では他にも「ERP」「組織改革」などの”飛び道具”もピックアップし、どのように思考するのかが書かれています。
今後「DX」も飛び道具として思考する日が来るかもしれません。
飛び道具トラップが起こるメカニズム
本書では、飛び道具トラップが起こるメカニズムを8つのステップで示しています。
その中でも以下の点は志向する際に注意する必要があると思いました。
- 文脈剥離=成功した企業の文脈を無視して飛び道具だけ取り上げる
- 同時代のノイズ=導入しないとヤバいという世間の声・圧力
- 手段の目的化=いつの間にか飛び道具導入が目的になってしまう
激動期トラップ
激動期トラップは、「今がいつよりも一番変化している」と考えてしまう罠です。
その表れとして以下の事象があります。
- 過去の新聞・雑誌では、いつの時代でも「激動期」という記事が並ぶ
- 発表される未来予測はいつも外れる。
本書では自動車、インターネット、テンゼロを取り上げて、激動に踊らされずに本質を見る思考を示しています。
テンゼロとは「インダストリー4.0」などバージョンアップが示される言葉です。
本トラップへの思考の前提として「ビジネスに革命は無い」というスタンスに立つことが必要です。
その上で、激動と言われる中「何が変わって何が変わらないのか」を見抜く訓練を行います。
具体的には、以下の点に着目して思考することが効果的なようです。
- 激動(テンゼロ)前が何であって、新しいのが何かを考える。(本質は変わっていない可能性あり)
- 激動と言われているものの文脈を考える。そのために自分事として考える。自分だったら新しいものがいるかいらないか。また実際に使ってみる(AI等)。
遠近歪曲トラップ
遠近歪曲トラップは、「時間的・空間的に遠いものを美化する」罠です。
例として、「シリコンバレー発ビジネス」、「女性やマイノリティー経営者の誕生」、「人口の減少(または増加)」が紹介されています。
このトラップも他のトラップと同じで全体の流れの中での「文脈剥離」が起きている状態です。
経営者の評価であれば、「女性である」という事実にばかり着目せず、実際の意思決定や行動を当時の歴史的文脈において考えることをしないと理解できないとしています。
まとめ
過去のバズワードや経営的出来事の記事から、その言葉や出来事が起きた文脈を考える。
その文脈を元に、なぜ成功/失敗したのかが説明できるようになると、経営的なセンスが高まっていく。
【引用書籍】