人事部門で働いている人の「専門知識」って何だろう?
人事部門で働いていると、ふと自分の専門性はなんであるかと疑問に思うことがあります。
- ソフトウェアエンジニアのようにコードが書けるわけではない。
- 開発部隊のように特殊な技術力があるわけではない。
- 法務部のように法律という専門用語があるわけではない。
(一部労働法などは人事部門でも馴染みがありますが) - 営業はまさに商品を売るという経営の要。
また「人事課題」というと「こうしたほうがいい」と、どの部門の誰でも意見することができます。「人事部は使えない」と批判することも簡単です。
これは扱う対象が「人間」のこと=自分のことなので、誰でも容易に想像し意見することができるためだと考えています。そして誰にでもできる専門性のない仕事のように思えます。
しかしながら、よく聞いてみるとその意見は千差万別で、確からしいことや疑わしいことまで多岐にわたります。
もし、人の気持ちや行動に関わることで、実証に基づく確からしい論理があれば、それは人を扱うプロとしての専門性になるのではないでしょうか。
もちろん「人」に関わることなので、100%いつでも当てはまる「科学的法則」というのは存在しないと思いますが、より高い可能性で人の気持ちや行動を推測することができれば、それは人を扱う仕事の専門的基礎知識といえます。
その論理を基本的知識として学べる本を、これからいくつか紹介していきたいと思います。
本日は人や組織に関する学問である「産業・組織心理学」という領域について、入門的に学べる本として「産業・組織心理学/有斐閣アルマ」を紹介します。
著者
本書は第10版(2018年11月30日)時点で、4名の共著となっています。
産業組織心理学のそれぞれの領域を、その専門家である著者が担当するスタイルとなっています。
- 山口 裕幸 九州大学大学院人間環境学研究院教授
- 高橋 潔 立命館大学総合心理学部教授
- 芳賀 繁 株式会社社会安全研究所技術顧問、立教大学名誉教授
- 竹村 和久 早稲田大学文学学術院教授
(第10版出版時点)
特徴
本書の名前は「経営とワークライフに生かそう!産業・組織心理学」です。
その名にある通り、働くすべての人に対して、充実したワークライフを送ること、そのために組織経営を効果的にするために何が重要であるかを示すことを目標に構成されています。
楽しい会社生活とプライベートを送るためのアイデアを考える際の、基本的な知識の一つになると思います。
より具体的にイメージを持つために、それぞれの章の冒頭には、トピックに関連する「あるあるストーリー」がプロローグとして提示されており、その状況の背景にある学問的な知識について説明していくスタイルとなっています。
各章の最後にはエピローグとしてプロローグの帰結が記載されています。
さらにサマリーと関連書籍も記載されており、さらに深めたい分野があった時に、次の学習方法を考える手助けになります。
カバー範囲
産業・組織心理学には、産業・組織心理学会という研究機関があり、本機関によって大きく4つの分野に分類されています。
分野 | 概要 |
---|---|
組織行動 通称”OB” (Organizational Behavior) | 組織に所属する個人の行動特性、背後にある心理、組織として集団行動するときの特性について研究。 |
人的資源管理 通称”HRM” (Human Resource Management) | 組織運営のキーとなる人事評価、人事処遇、人材育成について研究。 |
安全衛生 通称”SH” (Safety and Health) | 人々の安全と健康を促進するための方法について研究。 |
消費者行動 通称”CB” (Consumer Behavior) | 消費者の心理や宣伝・広告の効果を研究 |
本書ではそれぞれの分野について以下の内容を学習することができます。
組織行動
働くやる気(モチベーション)に関する理論
人はどうすればやる気が出るのか、その研究の歴史と具体的な理論について学ぶことができます。
- 人間の内部に存在する欲求の性質に着目してやる気を考える「内容理論」
- ゴールやインセンティブの設定によって刺激される行動とやる気を考える「過程理論」
- 行動結果として得る充実感など、主観的反応に注目した取り組み「職務満足感・コミットメント」
コミュニケーションに関する理論
組織でのコミュニケーションが重要となる場面について、起こりうる行動と背後にある心理を学ぶことができます。
- 組織における情報伝達
- 組織間の行動や利害のコンフリクト調整
- 集団意思決定時の行動と心理
リーダーシップに関する理論
リーダーシップ研究の歴史とその内容について学ぶことができます。
- 優れたリーダーの素質や特性を研究(特性アプローチ)
- 優れたリーダーの行動を研究(行動アプローチ)
- 組織のおかれた状況を考慮して優れたリーダーを考える(コンティンジェンシー・アプローチ)
- 複合的・多元的に研究(認知的アプローチ)
- 組織変革を推進する変革型リーダーシップ
人的資源管理
採用
- 採用する上で、人の能力やパーソナリティーについて、どのように考えればいいか。
- 採用面接をする際の注意点
キャリア
- 共通する生涯を通じた発達段階を説明する理論(発達段階理論)
- キャリアは誰が責任を持つのか。
- キャリアを発達する際に拠り所となる起点は何か。(キャリアアンカー)
- キャリアマネジメントとキャリアプランニングの違い
人事評価
- 評価基準とその適切性
- 絶対評価と相対評価のやり方
- 評価のミスとズレ=評定誤差の内容と背景にある心理
安全衛生
人間工学
- ユーザーインターフェイスと安全
- 効率的で安全な使用のためのデザインを実現する認知工学で提唱されるデザインコンセプト
- マニュアル(取扱説明書)の重要性
仕事の能率と安全
- 作業設計・動作研究の歴史
- ヒューマンエラーが起こる背景とリスクマネジメント
- 事故予防を実現する安全文化の構成要素
職場ストレス
- 作業負担と疲労とストレスの関係
- 職場環境の作業負担への影響
- 精神的ストレスについて
消費者行動
消費者の意思決定
- 消費者が購買の意思決定をするまでの情報探索の過程
- 消費者が最終的に意思決定をする方法
- 消費者の購入後の心理(認知的不協和理論)
消費者の価格判断
- 人が安い・高いと感じる価格判断における心理
- 参照価格とプロスペクト理論
- 消費者の持つ心理的財布と意思決定への影響
- 心的構成=フレーミングによって変わる消費者の参照点と意思決定
消費者行動
- 購買前、購買時、購買後の消費者が取る行動
- マーケティングや消費者保護への適用方法
- 消費者行動の研究方法(モチベーション・リサーチ等)
こんな人におすすめ
当初記載した通り、産業・組織心理学について広くどういうものであるかを知ることができます。よって、以下のような方には役に立つかもしれません。
- 産業・組織心理学がいったいどういう学問であるか知りたい。
- 自分が興味を持てて深めていく専門領域を探したい。
- 身近な生活と本学問の関係性を知りたい
他の書籍についても、別記事にて紹介していきます。